2025/04/18

Against All Odds



あまり大きな声では言えないけれど、ブレット・イーストン・エリス原作の映画『アメリカン・サイコ』がけっこう好きだ。もちろん、誰にでも勧められるような作品じゃないし、日曜の午後にお茶を飲みながら観るタイプの映画でもない。でも、なぜかときどき無性に観返したくなる。そういう映画って、ある。

とりわけ印象に残るのが、殺人の直前に主人公が音楽について饒舌に語るシーンだ。たとえばホイットニー・ヒューストンの「The Greatest Love of All」。彼は「自己愛の大切さ」について、まるで学会の発表のような無機質な口調で語る。声に熱はなく、言葉は乾いている。たぶん彼は、音楽を“感じて”いるわけじゃない。ただ語っているだけだ。その空虚さが、逆にこの作品の核を静かに照らしている。

バーの営業を終えたあと、Spotifyで80年代のポップスを流すのがグラスを片付けるときの小さな儀式になっている。最近は20代のお客さんが増えてきたので、選曲にも気を使う。けれど、閉店後くらいは自分の世代の音楽をかけたい。たとえ80年代に価値がないとわかっていても。

今夜は、フィル・コリンズの「Against All Odds」を選ぶ。そしてふと思う。もし『アメリカン・サイコ』の主人公がこの曲を評するとしたら、どう語るだろう。

──たぶん、こんなふうに。

フィル・コリンズの「Against All Odds」は、感情がまだ誠実だった時代の、極めて個人的な告白だ。1984年にリリースされたこのバラードには、失われた愛への未練と怒りが共存している。コリンズ自身の離婚が背景にあると言われているが、それを知らなくても、この曲の切実さは皮膚の下まで届いてくる。

「*How can I just let you walk away, just let you leave without a trace?*(どうして君を見送るだけでいい? 何も残さずに去らせていいんだ?)」──ここにあるのは自己憐憫ではなく、不条理への静かな怒りだ。なぜ、あんなにも愛したのに、すべてを持ち去られてしまうのか。それは、ウォール街の投資信託が一夜で無価値になるのと同じくらい、無情で理不尽だ。

控えめなピアノとストリングスが感情の波を静かに煽り、やがて彼の声も裂けるように揺れる。「*Take a look at me now, 'cause there's just an empty space...*(今の僕を見てくれよ。ただ空白だけが残った)」──その“空白”こそが、彼の存在証明になっている。

「*You're coming back to me is against all odds, and that's what I've got to face.*(君が戻ってくるなんて、ありえない確率だ。それが僕の現実さ)」──コリンズは希望すら否定する。あるのは喪失の余韻だけ。これは敗北の記録であり、孤独という名の静かな凶器への讃美歌だ。すべてが終わったあと、ただ一人きりの部屋に、リピートされるボーカルだけが残る。

聴くたびに思う。どれだけ努力しても、すべては「against all odds(ありえない可能性)」なのだ。勝てるはずのない戦いだった。でもそれでも、僕たちは戦おうとする。その愚かさが、美しい。


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